BSシネマでの「愛と哀しみのボレロ」はいわいるレターボックスサイズ、正確には、横2.35、縦1 とする比率 2.35:1のシネマスコープだ。 完全版とタイトルのついたLDの「愛と哀しみのボレロ テレビ放送版」は、横長テレビのない頃のテレビサイズであるから、横4、縦3で、1.33:1 のスタンダードサイズだ。同じ場面を見てみると、 |
このようになる。 ボレロを踊るジョルジュ・ドンの足元まで写っている。 昼の場面にして比較してみよう。 シモンとアンヌがナチの強制収容所へ連れて行かれる途中、停車した駅で列車から子供を下ろして捨てたが、戦後、生き残ったアンヌは子供の消息を調べに楽団員と共にやってきた場面だ。 |
映画版とテレビ版の同じ場面の映像を重ねてみよう。青枠で囲まれたところが映画版の映像である。 |
映画「愛と哀しみのボレロ」の画面比率はシネマスコープだが、撮影はアナモルフィックレンズ(映画フィルムでワイドスクリーンを撮影・再生するための特殊なレンズ)を使って撮ったのではなく、スタンダードサイズかヨーロッパビスタサイズ(1.66:1)で撮影されたと思われる。その上下をカット(トリミング)してシネマスコープのサイズにした。見て明らかなように映像の情報量はテレビ版のほうが多い。 ご参考 → アナモルフィックレンズ・シネマスコープ(ウィキペディア) どんなカメラで撮影されたのだろうか。 映画版のラストはさほど天気の良くないパリの空撮にクレジットが流れる。テレビ放送版のラストは「愛と哀しみのボレロ」のメイキングシーンにクレジットが流れる。撮影風景が写り、撮影に使ったカメラが見える。 |
(上のYouTube画像、「愛と哀しみのボレロ」の予告編にそのラストのシーンが入っている) 同時録音もするから、カメラは防音装置で覆われているのが分かる。 |
映画のデータベース IMDb の Les uns et les autres(1981)にあった撮影風景の写真。監督のクロード・ルルーシュとシモン役のロベール・オッセン 多くのシーンに使われているのはフィルムマガジンがカメラの後部にある、ドイツ製の Arriflex ARRI 35mm BL2 だ。このカメラは1975年頃にリリースされた。 「愛と哀しみのボレロ」の撮影された1980年頃は Super 35 方式(フィルムの音声トラックを取り除いて横24mm、縦18mmで撮影し、後にトリミングによって、スタンダード、ビスタサイズ、シネマスコープにする)はない。それが使われだしたのは1986年の映画「トップガン」あたりからだ。だが、1981年の「愛と哀しみのボレロ」はそれと同じことをやっている。 ご参考 → 映画の撮影・上映方式 5 スーパー35方式 |
映画版とテレビ版を見比べてみると、構図的にはテレビ版のほうが決まっているが、上下が冗長だとも言える。映画版とテレビ版の二通りを作るために使った撮影方法だったのだが、テレビ版のほうが画面が上下に広いため、観ていて特をした気分になる。 かつての富士フィルムのレンズ付きフィルム「写ルンです パノラミック」を思い出す。レンズは25mmの広角で、中には普通の35mmのフィルムが入っているが、上下にマスクが備えてあって、それによってトリミングされてフィルム上には横長に写るようになっている。現像プリントに出すと、横長のプリントになって渡される。私は一度だけ使ったことがある。 |
長崎のグラバー邸から(1990年7月 写ルンです パノラミックで撮影:上下の黒はフィルム上のイメージのない部分と思ってほしい) 写真用の35mmフィルムは横が36mmで縦が24mmだが、「写ルンです パノラミック」では黒の部分は使われない。見れば分かるように写真の両端は光量不足になっている。使い捨てカメラのレンズはプラスチックであって精度はよくないのだ。もしトリミングを外してフルサイズで撮ったとしても上端、下端も光量不足だろう。 映画版の「愛と哀しみのボレロ」は「写ルンです パノラミック」のようなフィルムの上下をトリミングした後、フィルムの縦幅に拡大、左右を圧縮してシネマスコープとして公開用フィルムにしたものだ。普通、そのようなプロセスを経れば映像の劣化は避けられない。それでも、BSシネマで観た映像はきれいだった。 |
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